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経営者のためのeビジネスの心得3 「“勝ち組” より “価値組” を目指そう」
尾花 紀子
1961年8月16日生まれ
・講演・執筆・IT教育・人材育成・研修開発・SNS相談
・Web活用&体制づくり・マーケティング・プロモーション etc...
「経営者のためのeビジネス心得」
(3) “勝ち組” より “価値組” を目指そう
マーケティングは自己防衛手段にあらず
「データ・マイニング」という、eビジネスでよく語られる分析手法があります。「マイニング」とは“発掘”という意味で、企業活動の中で発生する大量な生データに内在する相関関係や傾向、ルールなどを、システムが自動的に見つけ出してくれる手法です。
テレビや紙媒体、WEBなどの情報を見聞きすると、お客様の声を商品やサービスに生かすためには、まずこの「データ・マイニング」的なことができる環境を作ることがベストであるかように感じます。それには当然IT投資が伴いますから、「うちはせいぜいWEBアンケートの結果をパソコンで集計するくらいしかできない」と、eビジネスに踏み出そうとした足がすくんだ経験をお持ちのかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、どんなに立派なシステム環境があっても、アンケート調査自体がポイントを突いていなかったら、その結果には何の意味もありません。「お客様のナレッジをうまく引き出す」ための工夫は、IT環境にかかわらず、必ず根幹になければならないのです。
とても単純な例でご説明しましょう。
WEB上にスーツの写真が10着並んでいるとします。1つ1つをクリックすると、ワイシャツやネクタイとのコーディネート例も見られます。そして、アンケートにはこんなことが書いてあります。
Q.大切な取引先を接待するとき、着たいスーツはどれですか?
1位~3位まで、順位を付けてください。
調査の結果、1位が5点、2位が3点、3位が1点で集計した結果、3番と7番のスーツが高得点になったとしましょう。これらを接待シーンに最適のスーツとして大々的に売り出してみたが、売り上げは芳しくない。会議の席には「アンケート結果を生かした戦略だったのに」と集計チャートを見せながら首をかしげるプロジェクト・マネジャーの姿が。何か間違ってませんか? マーケティング調査は、自分たちの行動を正当化するための材料では断じてありません。自己防衛のためにアンケートを行うと、コストが無駄になるばかりか、プロモーションを大々的に行った分だけ、ブランドイメージがマイナスとなることだってあるのです。
ではここで、このアンケートに答えた人たちの心の中を洞察してみてください。
Aさん : 接待用スーツなら3番だけど、今欲しいのは通勤用だから5番なんだけどな。
Bさん : 断然7番のスーツがいい。でも、この手は好きだから何着も持っているんだよね。
Cさん : スタイルは3番。ただ、9番の生地だったら、すぐにでも欲しかったんだけど。
おわかりでしょうか。回答者の身になって考えてみると、各人各様の思考や判断、あるいは知識など、いわゆるナレッジが複雑に作用して答えを出しているのです。「わかりきったことを」と思われたかもしれません。こうやって文章にしてみれば、みなさんそう思うのです。大切なのは、こういう表出しないナレッジをくみとれる手法を“実際に声を拾う前に”考えて対応することなのです。くみあげられなかったナレッジにこそ、的を射た戦略が隠れていることも多いのです。
デジタルだからこそアナログに
eビジネスは、デジタル武装をすることではありません。初回にお話ししたように、利用者に価値をもたらすことによって、提供者に利益をもたらすための枠組みです。人が行ったら大変時間のかかること、人ではできないことを、デジタルを味方にして遂行していくことに意味があるのです。
ですから、先にデジタルありきであってはなりません。それを勧めるコンサルタントやエンジニアも不要です。データ・マイニングのためのシステムが存在しようとしまいと、お客様の隠れたナレッジをくむ工夫は不可欠なのです。
まずはアナログありき。できるかできないかはちょっと忘れて、お客様の心の奥深くを推測し、目いっぱいわがままなアイデアを出してみましょう。それを、複雑なパズルをひも解くかのように、アンケート項目やシステム構築に組み込んでくれる担当者やエンジニアが、必ずいるはずです。
利用者のニーズ&ウォンツを生かすための工夫は、人がすべきこと。アナログな発想をベースにデジタルを有効活用し、そこからアナログな「価値」を見つけ出して、人の力でうまく戦略に落とし込む。これが、eビジネスの「勝ち組」への近道なのではないでしょうか。「勝ち組」の「かち」は「価値」なのかもしれませんね。
次回は、eビジネスの心強い味方である「デジタルな仕掛け」について心得ておきたいことをお話ししていきます。
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