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ローカル発ネット通販の可能性を広げる 『Webあきんど養成ジム』 6年間の変遷
Text by 尾花紀子@2004年夏
進化するプロジェクトが 島根あきんど魂を奮起させた ~ ローカル発ネット通販の可能性を広げる |
知識・情報・経験が豊富な「育てる側」がそのままを語り、学ぶ側に応用することを求めるのは、どう考えても逆である。書籍やe-learningなどでも学べる一般的な方法論や都会(あるいは欧米)の理論を提供するのではなく、それを地域用に完璧にリサイズし、自分たちの力で歩めるまで徹底的に育てることをしなくては──試行錯誤の後、一人のスーパーバイザーとの二人三脚が始まったのは5年目の春だった。 ◆一貫した講義内容と甘やかさない徹底育成に行き着くまで・インターネットショップを通して創業したい・インターネット通販で販路を拡大したい
こういった思いを受けて、財団法人しまね産業振興財団が『Webあきんど養成ジム』のプロジェクトを起案したのは1998年の春。日本におけるECがようやく本格スタートしたこの頃に、インフラ整備が進んでいるとは言えなかった島根県が本腰を入れて取り組んでいたということにまず驚かされる。 受講者、財団双方にメリットはあったものの、このコンセプトにおけるさまざまな問題点が見えてきた。産直と酒以外を扱う業種への対応、参加企業の温度差によるイメージダウン、ひとつのIDで複数企業が管理するというセキュリティー面、ショップ運営における財団への甘え。 楽天市場が共同出店の店舗を禁止したことを機に、平成13年度からは
「教育」に特化した形にシフトした。中小企業が本当にネットショップのノウハウを得るためには、自分で構築(含外注)・運営をしなければ身につかない、という事実があると判断したからだ。共同出店を廃止した代わりに「しまね逸店クラブ」というポータルサイトを提供し、卒業生には出店資格が与えられた。Webあきんど養成ジム第二期のスタイルである。が‥‥ 一貫性ある徹底教育をしたい、と強く考え始めていた平成14年度コース終了直後、現在スーパーバイザーを勤める(株)カンドウコーポレーションの代表・福原勘二さんとの出逢いがあった。中国地区トップクラスのWEB制作会社のノウハウだけではなく、かねてより評判が高かった福原さんの人材育成パワーへの雪吹さんの熱い思いが、多忙な福原さんの心を動かした。 ◆「あきんどの掟」と「スタッフの誓い」平成15年度のWebあきんど養成ジムは、大きくそのスタイルを変えた。 「全課程8割以上の出席」と「全課題の提出と宿題の履修」を前提条件に募集し、応募動機から受講者を選考するという形が取られた。 ただし、島根県には東西約240kmに伸びる地理的ハンディキャップがあり、受講者の移動時間の負担は、他県の常識をはるかに超える。そのため、前年に完成した基幹通信網の伝送速度10Gbpsの全県高速IP網を活用した双方向テレビ会議システムで、メイン会場である松江市と130km離れた浜田市のサテライト会場とを繋げた。 また、「あきんどの掟」と「スタッフの誓い」が宣言されたのも特徴だ。 「あきんどの掟」とは、講習期間内に必ずネットショップを開設し、ネットショップオーナーとしてデビューをしなければならないという受講者の義務。 「スタッフの誓い」とは、 (1) 受講者の最低1割を月商100万円突破させる、(2) 最先端の情報ながらも地域にリサイズされた「完全オーダーメード・テキスト」を使用する、という雪吹さんをはじめとするスタッフとスーパーバイザー福原さんによる二つの誓いである。
月商100万円突破を目指し、全10回の内容と講師陣を構成しなおした。オーダーメード・テキストによる講義は全講師に徹底され、他の講師が担当する際は、講義の一貫性を保つための綿密な打ち合わせの上、福原さんコーディネートのもとで実施された。前期と後期の間に2ヶ月の「サイトの立ち上げ期間」を設け、この間に個別コンサルティングも行った。 「はっきり言って、出席よりも課題や宿題が大変でした」と、昨年の受講者は口をそろえて言う。結果、参加42社中33社が卒業。仕事の関係で涙を飲んだ受講者もいたが、仕事優先を言い渡されたと相談されれば、福原さんが上司に必要性を説いたりもした。「地域では、WEB担当者だけではなく、WEBに対してまだまだ認識の薄い周囲のスタッフや上層部の意識改革も必要」と福原さんは常に言い続けている。 さらに「WEB制作を外注したい」というニーズとのベスト・マッチングができるよう、『WEBプロデューサー養成講座』も急遽企画した。リアルとの連動、マーケティング、技術的な仕掛け、プロモーションなど、WEBを作るだけではなく総括的にプロデュースできる人材は、地域にはまだまだ少ない。ましてや、Webあきんど養成ジムの受講者からの受注をこなすのは大変だ。何しろ、SEO対策のノウハウまで教え込まれているクライアントを持つことになるのだから、ショップ側からコーディングを指示されるはめにもなる。 これで、「ネットショップ運営者」「WEB制作&プロデューサー」「ショッピングポータルサイト=しまね逸店クラブ」の3要素すべて島根県内で調達できるようになったが、効果はそれだけではなかった。 ◆エッヂを立てる「今までにはない商品の動きと売れ方に正直驚いています。ネット販売の荷物の数は毎日平均して1個程度だったのが、検索エンジンにひっかかるようになってから毎日4個です。子供がここ数日の荷物を見て何と言ったと思いますか?“やっぱ、福原さんはすごい”ですよ。(笑)松江に行くには子供や夫の協力なしでは出来ません。子供は私が何の為に松江に行っているのか、よくわかってくれています。夏からずっと通っていて、今初めて子供も“あ、変わったのかな?”と、荷物を見て感じてくれているようです。」 これは、受講者の中でもコミュニケーションの中心的役割を果たしている、乾物を扱う松ヶ枝屋の永瀬裕美さんの昨年末の言葉。まだまだ受講中だったこの状況の数ヵ月後、島根特産のキー商品が「日経レストラン」に取り上げられ、さらに販路は拡大したそうだ。 「エッヂを立てる」は、福原さんの講義を一度でも聞いたことのある人は確実に耳にしている言葉だが、ジムにおいても、そのお店のブランドロイヤリティの大切さを全講義を通して耳にタコができるほど擦り込まれる。なぜなら、ネットへの展開は「売る」ためだけではなく、永瀬さんのお店のように「見つけてもらえる」可能性も広げてくれるからだ。 個別コンサルティングでは、受講者自身が気づいていないような「エッヂ」を会話の中から探し出し、それを「WEBデザイン」にも「コピーライティング」にも「SEO対策」にも活かしていく方法をアドバイスする。漠然とした感覚でアレもコレもと欲張っていると「それではどれも売れない、ショップ開店など無理」と厳しい指摘が飛ぶ。宴会で無邪気にはしゃぐ子供のような福原さんとは全く対照的な、スパルタコンサルティング。同席している雪吹さんも、思わず襟を正すことが何度もあったとか。 また、自社製品の強みを見つけるためには他人の意見を聞くことが大切と、受講者たちは頻繁に教室に商品を持ち込む。 いろいろなエッヂをコミュニケーションの中から掴み取っていくことにより、受講者のサイトは確実に「エッヂの効いた」ものへと姿を変えていく。一方的にアドバイスするのではなく、質問を投げかけ、一緒に考え、意見を言い合い‥‥サイトの変化と共に、受講者自身のものの見かたや考え方も育っていく様子が頼もしく感じる。 こうして、昨年度のWebあきんど養成ジムは、受講後のECサイト構築企業における平均月商360%UPという成果をあげた。 ◆『Webあきんど養成ジム』から『WEB活性化プロジェクト』へ結局、半年で40日間も島根入りしていたという福原さんは、「きっと、東京や大阪、あるいは地元広島なら、ここまでの内容をレクチャーしなかったでしょう。WEBプロデューサー養成講座など内部資料まで見せて解説をしましたし、ここまでしたら、自社のライバルを作るようなものですよ。(笑)でも、うちの会社は日々進化していますから、その時点での目一杯のノウハウでもすぐに過去のノウハウになります。だったら、地域のこれからを担おうとしている人たちには余すところなく伝えてあげたいじゃないですか。そこから先は、自分たちで学べるくらいにしてあげなければ、いつまでたっても地域は自立できませんから」と話す。 そして今年。昨年の過渡期的なチャレンジでの結果を踏まえ、より大きな枠組みで地域情報化と地域ビジネスの向上に取り組むべく、『WEB活性化プロジェクト』へと装いを新たにした。 『Webあきんど養成ジム』は、受講者の状況やレベルに応じて「開発支援コース」と「もっと拡販コース」の2つに分けられた。大田をプラスした3会場で昨年の全コースが学べる「ビデオ受講システム」を設置するのと同時に、離島である隠岐向けに1日講座を設けた。『WEBプロデューサー養成講座』にも福原さんによる個別コンサルティングを可能にし、「商品撮影講座」と常に新しいノウハウを要求される「SEM / SEO実践講座」とを、全コース終了後に別立てで用意した。 『しまね逸店クラブ』もリニューアルし、安心なお店の目安として「ITTEN reccomend マーク」を発行することになった。 情報支援課課長の今岡泰治さんは、その仕事への姿勢と蓄積されたノウハウ、人柄を全面的に信頼し、『WEB活性化プロジェクト』の専任プランナーとして、雪吹さんに全権をゆだねることにした。IT活用における若い力の可能性を信じ、縁の下の力持ちに徹しているボスあってこそのチーム今岡パワーが、また今年も炸裂してくれる。 ◆ローカル発ネット通販の可能性は地域企業の育成にあり 東京に学んだ受け売りの情報で行われる東京直輸入の研修や、東京からすばらしい講師を招聘してパワーと感動をお土産にする講演など、東京の理論やスタイルをそのまま持ち込んで「似非東京」を演出した学びを提供したがる傾向がまだまだある。そこには、「東京に行かずにこんなに素晴らしい話を聴けて」と満足する地域の人たちが大勢いるため、残念ながら需要と供給のバランスが取れてしまうのである。 テレビ会議システムの応用等により、他県への展開も考えていきたいと雪吹さんは語っている。島根のあきんど魂の波が、地域の商店を元気にしてくれることを願ってやまない。 |
<Message:ページ左上からのつづき> 『Webあきんど養成ジム』では、平成15年度7回目、平成16年度「もっと拡販コース」3回目と、講師を務めさせていただきましたが、こんなに意識が高くて熱いセミナーは他にあまり類を見ないぞ!と思えるほどの空気に、思わず私も熱くなってしまいました。 NHK「きょうの料理」のテキストに取材記事が掲載された河野乾魚店、カタログハウス「通販生活」から話をいただき、商品販売が実現したけんちゃん漬etc..、Webあきんど養成ジムの成果は、売り上げはもちろんのこと、時を経るごとにこんな形でも出続けています。
受講生のみなさんを見ていると、地域産業活性化の答えの1つがここにあるような気がする私です。 平成18年度はスタイルを変え、自社サイトの有効活用で悩んでいる企業のみなさんを対象に 『島根ウェブ再活性化塾』 (リンク先は19年度) としてWeb活用による経営支援をしているとのこと。 なお、『Webあきんど養成ジム』 を卒業し、自身で継続する力を得た彼ら&彼女らは、自店の拡販を目指す 「情報交換」 「他店との交流」 「勉強会」 の場を自分たちで作り、切磋琢磨しながら歩みはじめています。 長文、お読みいただきましてありがとうございました。 |
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